- 2026年5月12日
- 2026年5月13日
企業講演会で話してきました
進化し続けるAI技術、問われる胚培養士の役割
こんにちは。培養部SAKAMOTOです。
先日、製薬企業様の社内勉強会にて、
「進化し続けるAI技術、問われる胚培養士の役割」
というテーマでお話しする機会をいただきました。
今回の発表では、近年急速に進歩しているAI技術や自動化が、不妊治療の現場、特に培養室の業務にどのような影響を与えるのか、そしてこれからの胚培養士にはどのような役割が求められるのかについてお話ししました。
少し専門的な内容ではありますが、簡単にいうと、
「AIが発展すると、胚培養士の仕事はどう変わるのか」
「これからの胚培養士に本当に必要な能力は何なのか」
という内容です。
不妊治療の現場では、すでに多くの技術革新が進んでいます。
たとえば、タイムラプス培養庫による受精卵の連続観察、AIによる胚評価、精子選別の補助システム、凍結や顕微授精に関わる機器の高性能化など、これまで胚培養士の経験や感覚に頼っていた部分にも、少しずつ機械やAIが関わるようになってきています。
もちろん、現時点ですぐにAIが胚培養士の仕事をすべて代わりに行う、という話ではありません。
ただし、画像を見て判断すること、データを集計すること、一定の基準に沿って分類することなどは、AIが得意とする分野です。今後さらに技術が進めば、胚の評価や記録、データ管理などの一部は、今よりも自動化されていく可能性があります。
発表では、胚培養士を取り巻く変化として、主に3つの点を取り上げました。
1つ目は、胚培養士の人数が増えていることです。
これまで専門性の高い職種として希少性がありましたが、資格保有者数は増加傾向にあり、今後は「胚培養士であること」そのものだけでは差がつきにくくなる可能性があります。
2つ目は、不妊治療施設の増加と患者さんの分散です。
新しいクリニックが増える一方で、将来的には不妊治療の対象となる年齢層の人口減少も予想されます。つまり、医療機関側もこれまで以上に質の高い医療、わかりやすい説明、安心して通える環境づくりが求められる時代になっていくと考えています。
3つ目は、AIや機器の高性能化です。
胚の画像評価、タイムラプス画像の解析、精子の自動選別など、これまで熟練した培養士の目や経験が必要とされてきた業務の一部は、AIや自動化された機器で補助できるようになってきています。

今回の発表では、当院で行ったタイムラプス画像を用いた胚評価の検証についても紹介しました。
具体的には、当院のタイムラプス培養庫を用いて、人間による胚評価と、AI画像解析による胚評価を比較しました。対象は1,316症例で、妊娠率の予測精度を比較したところ、人間評価のAUCは0.64、AI評価のAUCは0.60という結果でした。
AUCとは、簡単にいうと「どれくらい正確に結果を見分けられるか」を示す指標です。1.0に近いほど精度が高く、0.5に近いほどランダムに近いとされています。
今回の結果だけを見ると、人間評価の方がやや高い数値でしたが、どちらも完璧に妊娠を予測できるわけではありませんでした。

これは、AIが劣っているという話でも、人間の評価だけで十分という話でもありません。
胚の評価はとても重要ですが、妊娠には胚の状態だけでなく、子宮内膜、ホルモン環境、年齢、治療背景など、さまざまな要因が関わります。
そのため、AIの結果だけで何かを決めるのではなく、あくまで一つの判断材料として活用し、最終的には臨床全体を見ながら考えていくことが大切だと感じています。
今回の発表準備を通して改めて感じたのは、これからの胚培養士に求められる役割は、単に「手技が上手い」「胚を評価できる」ということだけではなくなっていく、ということです。
もちろん、基本的な技術や知識は今後も重要です。
しかし、それに加えて、
・新しい技術を正しく理解する力
・AIや機器を使いこなす力
・患者様やスタッフにわかりやすく説明する力
・後輩を育て、チーム全体の質を上げる力
・感情的にならず、組織として安定した判断をする力
こうした力が、今後ますます重要になるのではないかと思います。

AIや高性能機器が普及し、医療が標準化されていくほど、個人の技術力だけではなく、チームとして安定した医療を提供する力が求められます。
発表の後半では、当院の培養部で取り組んでいる組織づくりについても少し紹介しました。
当院では、培養室内の意思決定を一人に集中させるのではなく、副主任を含めた複数名で相談しながら進める体制を整えています。
また、新人や若手スタッフの意見であっても、良い案は積極的に取り入れ、スタッフが相談しやすい環境づくりを意識しています。
培養室の仕事は、一人の技術だけで成り立つものではありません。
安全な医療を継続するためには、確認体制、情報共有、教育、相談しやすい雰囲気など、チーム全体の仕組みがとても重要です。
AIを恐れるのではなく、正しく理解して活用すること。
そして、AIでは補えない部分で、胚培養士としての価値を高めていくこと。
今回の発表を通して、私自身もこれからの培養室のあり方について改めて考える良い機会になりました。
今後も新しい技術や情報を取り入れながら、患者様にとってより良い治療につながるよう、培養部として取り組んでいきたいと思います。
培養部 SAKAMOTO