- 2022年9月8日
- 2024年11月22日
培養部 PGTA対応
こんにちは培養部です。
着床前診断(PGT-A)について進展がありましたのでご報告させていただきます。
2022年9月1日に日本産婦人科学会から「着床前診断についての細則」が更新されました。
まずこれまでの背景として、日本では高度生殖医療(ART)についての法律は現状存在していなく、日本の医師たちが日本産婦人科学会のなかでガイドラインを作り、ARTについて倫理観や具体的な治療のルールを決めてきました。そのなかで2016年頃から、当時海外では既に実施されていた着床前診断(PGT-A、PGT-SR、PGT-M)を日本でも行うかどうか検討が始まり、まずは「特別臨床研究」という枠組みで研究という名目で、特別なルール内で実施されてきました。
着床前診断についての詳細はこれまでも触れてきましたので割愛しますが、簡単に説明すると、体外受精で得られた受精卵を胚盤胞まで育てて、育った胚盤胞から細胞の一部を採取して検査を行うことで、遺伝的に移植に適した受精卵なのかどうかを、移植する前に調べることができる検査です。それによって余分な移植を減らすことができ、流産率を下げる効果があります。
当院も含めた特別臨床研究に参加する全国の病院から蓄積したデータによって、有効性が明らかになってきたこともあり、当初と比べて少しずつ状況が変わっていることを受けて、今回の細則の改訂につながったのだと思います。
更新された細則について特に着目するところは次の一文です。
改訂前:体外受精・胚移植実施中で、直近の胚移植で2回以上連続して臨床的妊娠が成立していない方
改訂後:反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する不妊症の夫婦
今までは、体外受精をした後、「2回連続」で胚移植して妊娠しなかった場合に限りPGT-Aが実施できる、といったものでした。つまり一度妊娠を挟んだ場合は連続ではなくなるので適応外となっていました。今回の改訂にあたり、直近2回連続でなくても適応となり(連続→通算、流産2回)このあたりがほんの少し改善された模様です。今後も先進医療や、ゆくゆくは保険適用化へ向けて進んでいくものと思われますので、期待が持てます。
しかし、実際にどうしてここまで学会がPGT-A適応に対して慎重になっているか、疑問に思われる方々もいらっしゃるかと思います。患者様から実際に疑問を呈されることも多々あります。
たしかに、実際に海外では体外受精の治療として通常に実施されており、安全性等についてはすでに検討する段階にはなく、さらなる技術の進歩(精度向上、非侵襲性を追求)のために研究がされているステージであるため、現在の日本での日本産婦人科学会の対応には賛否あると思います。
また、ちまたでは日本産婦人科学会に所属しておらず、受診した初回からPGT-Aを実施して体外受精ができるという施設が、都内某所で新設されたなどという話を耳にします。
そこにはまだ日本では考慮しなければならない課題がまだあるようです。今後、直面する課題について各方面で論じられていますが、一部をご紹介します。
今後の課題
〇PGT-A対象の基準:いずれ緩和?
〇実施施設の体制整備:一定水準の年間症例数や技術レベルをどのラインまでにするか。データ集計管理体制の設置。作業工程のマニュアル化、使用する機器・培養液の選択、統一。
〇倫理社会的な問題:
「優生思考」にならないか、受精卵の優劣を選別する事への懸念。PGT-Aにより障害児の排除(マス・スクリーニング)が目的ではないこと、障害者が生きづらい社会にしない共存社会(ノーマライゼーション)を目指してほしいと考える。※日本小児科学会、ダウン症協会からの意見
などなど
まだ決めなくてはならないことが山積みのようです。
菅元総理の一声で不妊治療の保険適応化がスピーディに行われましたが、実際の現場レベルではまだまだこういった整備体制の面で確立されていないところが多いです。
同じようにPGT-Aについても体制の整備に時間がかかるかもしれません。
患者さんにとってより良い治療ができるように、PGT-Aについても最も効率のいい治療体制が早くできたらいいなと思います。
培養部 SAKAMOTO
※日本産婦人科学会HPより ※以下のURLからPGT-Aについて紹介動画が公開されています。ご興味ある方はご覧になってください。
不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-A・SR)|公益社団法人 日本産科婦人科学会 (jsog.or.jp)