• 2019年12月11日

AIの波がここにも

こんにちは培養部です。

本日はライフサイエンス技術研究会、というごくごく身内で行っている、大学時代のOBや知り合いの胚培養士が集まって勉強会をする会があるのですが、
今回は毎年に年に一度のイベントとして、学生さんや一部一般の方も参加できるような大規模な研究発表会を開催しました。
そこでは毎回現場で活躍するゲストを呼んだりして小規模ながら、なかなかメジャーな大会では実現しない(気軽な会のため研究途中の内容でもお話してもらえる!)、最先端のお話がきけちゃう面白い会になっています。
今回の個人的な目玉はなんといっても【AI】( 英: artificial intelligence、AI)人工知能です!
いやはや、とうとう。
とうとうわれわれ不妊治療業界にも自動化の波がやってきたか という感じです。
期待と不安でざわつく内容でした。
今回はそんなある意味 最先端の、現場の生の情報を少しだけご紹介します。

不妊治療分野で導入されようとしているAIはずばり
「AIを使って胚を自動で観察、評価しちゃおう!」ということです。

今回AIを導入したクリニックに務めている培養士さんの発表では、現在2種類の機器を導入しているそうです。その機器を使うことによって

①AIによる胚の観察・評価のオートメーション化
②受精卵の凍結のオートメーション化
が可能であるということです。


①【Eeva®】Eeva®Test(Early Embryo Viability Assessment)は革新的なソフトウェアを用いた胚診断システムです。重要なパラメーターを自動的に認識し、胚発生ポテンシャルを計測します。従来の伝統的な形態学による胚のグレーディングと併せて、胚盤胞へ発育する可能性が高い胚を予想するのに役立ちます。


②【Gavi™】
Gavi™は世界初の自動ガラス化装置です。卵子や胚を凍結保存するプロセスに革新的なアプローチを採用しました。時間だけでなく、温度や濃度も統一することにより、自動化・標準化されたプロトコルを用い、一貫性のある結果を出せるように設計されています。

メルク株式会社

まず①ですが、
顔認証システムなどでわかるように、いま画像解析の技術は、数年前に比べて格段に向上しているのはご存知だと思います。この機器ではその画像解析技術を応用して受精卵のグレード評価に導入してしまおう という試みです。
方法としてはカメラ付きの培養庫で培養して、メーカー独自の解析アルゴリズム(非公表)で評価してグレードを評価する、といったものです。

現状ではほとんどの施設の培養室では、培養士が培養庫から卵の入った培養dishを取り出して、直接顕微鏡でのぞいて、観察・胚の評価をします。たしかに、この部分が自動化することによって、ヒューマンエラーの防止や大幅な作業の効率化が図れると思います。
極端な例では、夜中や休診日など培養士がいない時間帯にも観察することが可能になるわけです。

②では
採卵したあと、移植できそうな良好胚が得られた際に凍結保存するのが一般的ですが、この作業を自動でやってくれる機器だそうです!
通常、胚培養士が手作業で凍結保護液Aに10分浸けて、B液に60秒浸けて、いそいで極小の保存容器にのせて、液体窒素にぼちゃん! で完了 という、時間の制限もあって毎回とても緊張する工程で作業を行いますが、

ここをなんと「自動化」できるという夢のような装置なのだそう。これは欲しいです。

①②のような機器が導入され、一部自動化するによって将来的には
1.人件費削減 2.ヒューマンエラー防止 3.施設ごとの成績の安定化
などが期待されます。

まわりの培養士さんやお医者さんのお話を聞いてみても、こういった自動化には賛否あり、色々な意見が聞かれますが、わたし個人的には、作業の効率化や事故の防止などにつながるし、こういった技術の進歩にはおおいに期待していて、この手のお話は大好物 大賛成です。

が、しかし、、、実情 そんなに甘くないようで。
どうもこの分野、まだまだ「発展途上」のようです。。。

まず①と②両方に言えることとして、作業の自動化が可能なのはすべての作業工程の一部だけ、ということです。たとえば、受精卵の入ったdishをそれぞれの機器の所定の場所に設置し、起動させたり、行程終了を待って、dish動かしたりしなくてはならないそうです。つまり完全自動化ではなく、あくまで一部工程のみを自動化したものであるとのこと。作業工程の1から10までを任せられるものではないようです。たとえば2~3、7~9の行程だけを自動化 のようなニュアンス。まだ一人の培養士が付きっきりでいなくてはならないようです。うーん残念。
肝心かなめ ①の胚の評価の自動化のところもまだまだ全国的に導入されるには例数が少なく、検討の余地ありのため、各施設様子見をしているところだと思います。今後、この機器を導入する施設がもっと増えれば、もっともっと自動化が加速するのではないかと思います。 まあ当院もまだまだ様子見の姿勢ですが(笑)

でも今後の発展次第ではおおいに期待ができます。
いまではこの①、②の装置が分かれていますが、これが一本化、作業の1から10までを一つの流れで出来るようになれば、完全自動化も夢ではないということですね。メルク株式会社さんには頑張っていただきたいです。応援してます。

わたしたちこの不妊治療の分野はまだまだ発展途上です。その理由として、それぞれ施設ごとの方針の違いの影響もあると思いますが、毎年どんどん新しい研究発表や技術が開発、報告されているので、技術や設備にばらつきがあるのが現状だからです。
そのため、わたしたちは大きな学会の発表会に参加するのは当然として、横のつながり、勉強会などの個人間でも情報を得ていき、情報のアップデートをしなければなりません。とくに近年の世の中の流れはどんどん加速していると思います。
われわれも上手く波にのりたいものですね。

培養部 SAKAMOTO

 

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